またもや夏の逆襲である。颱風接近に伴い、南洋からの湿った熱気があたり一面にたちこめている。ちょっと近所へ買物に出ただけで大汗が噴き出す。初秋にはありがちな天候だ。こんな日には豪放磊落なルーセルが相応しかろう。
という訳で昨日の余勢を駆ってドネーヴ指揮の音盤をば書庫の棚から取り出す。
ルーセル:
交響曲 第四番*
フランドル狂詩曲**
小組曲***
小管弦楽のためのコンセール****
シンフォニエッタ*****
ステファーヌ・ドネーヴ指揮
ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
2006年10月17、18日**、2007年5月30~6月1日*****、2008年8月13、14日* ***、2008年8月14日****、グラズゴー、ヘンリー・ウッド・ホール、10月20、21日****、グラズゴー、シティ・ホール
Naxos 8 572135 (2010)
→アルバム・カヴァー
今や「ルーセル交響曲・管弦楽曲集成」全五枚に大成したステファーヌ・ドネーヴ(現時点での)最大のプロジェクトの一枚である。廉価盤ゆえ軽視される気味があるが、これはルーセル録音史上、1960年代末のジャン・マルティノンの先駆的な企て(Erato/4LP)をも凌駕する偉業と評されよう。
このプロジェクトが特筆に値するのは、交響曲全四曲やバレエ「蜘蛛の饗宴」「バッカスとアリアドネ」は勿論のこと、「復活」「春の祭りのために」「眠りの精(砂男)」といった演奏機会の乏しい曲、更にはオペラ=バレエ「パドマーヴァティー」から抜粋した組曲のような初録音まで網羅していることだ。ただし合唱を要する「アイネイアス」と「詩篇第八十篇」、協奏的作品は省かれている。
不勉強な小生はまだ全部を試聴した訳ではないが、とりわけ愛好しているのがこの一枚だ。なんといっても、ともすれば第三番の名声の蔭に隠れがちな第四交響曲を冒頭に据え、そこに中期・後期の作品を有名・無名とり混ぜた選曲の妙が際立つ。とりわけ最晩年(死の前年)の「フランドル狂詩曲 Rapsodie flamande」(1936)は滅多に聴く機会がない。
通して聴いてみてドネーヴの適性は隠れもない。ミュンシュやマルティノンの剛毅でヴァイタルな没入こそないものの、その代わり肌理細やかに揺動するリズムがある。指揮者のルーセルに対する並々ならぬ愛着は明らかだ。小気味よい律動感とバランスのとれた声部の扱いが実に好もしい。そうそう、ルーセル演奏はこうぢゃなくっちゃね!
どの曲も安心して聴ける出来映えだが、小生は「小組曲」以下の三曲が殊のほか愉しめる演奏だと感じた。いずれも「急・緩・急」の三楽章構成という同工異曲の曲なのだが、歯切れのよいアレグロ楽章と中間の緩徐楽章の対比が耳に鮮やか。ルーセルならではの確固たる構成感や燻し銀の音色配合にもうっとり。
今ふと気づいたのだが、ドネーヴの出身地は北仏トゥールコワン(Tourcoing)。そうなのだ、彼はアルベール・ルーセルの同郷人なのである!