たった今
クリス・マルケルの訃報が届いた。九十一歳の誕生日当日に亡くなったというからまさに大往生には違いないが、旺盛な好奇心と瑞々しい詩情ゆえに、いつまでも老いることのない人という印象がある。
私たちの世代にとっては何を措いても《
ラ・ジュテ》(1962)の監督だ。静止画像のみの連なりが立派に映画たりうるのだという驚きを誰もが等しく抱いた筈だ。そして、ほんの一瞬だけ挿入された動く映像(愛する女性の静かに微笑する顔)に衝撃を覚えなかった者もおるまい。映画史に仄かな光を放つ「究極の」一本。
ムソルグスキーの歌曲集「陽の光もなく」から標題を得た《
サン・ソレイユ》(1983)は時空を超えた破天荒な旅のフィルム。もう細部は遠く霧の彼方だが、日本各地にも取材し、あちこちで猫の出没する奇妙に魅惑的な佳作だったと記憶する。
最後に観たのは革命期に活躍したアレクサンドル・メドヴェトキン監督の生涯を追う《
アレクサンドルの墓 最後のボルシェヴィキ》(1992年)だったろうか。先人に対する敬慕と愛惜の念に満ちた世にも美しいオマージュ作品だった。