ラヂオの朝のニュースで山田五十鈴の訃報を聞く。もう舞台に立たれなくなって久しいし、再起はもはや望めぬものと悟っていたものの、月並な言葉だが巨星墜つの想いを深くする。九十五歳というお歳は奇しくも昨日亡くなったアーネスト・ボーグナインと同い年なのに驚く。
たった一度きりだが山田五十鈴の生の舞台を観たことがある。幸田文の《
流れる》を脚色した芝居で杉村春子との共演(!)という、夢としか思えぬ千載一遇の機会だった。成瀬巳喜男監督の作中人物がそっくりそのまま(両優共いっそう貫禄を増して)眼前に現れたものだから、くらくら眩暈がした。舞台の上で見えない火花が散るように感じたものだ。あれは1988年、今はない日比谷の芸術座だったと記憶する。