(承前)
昨日に続いて「
ターン・ターン・ターン Turn! Turn! Turn!」のことをもう少し書こう。中学生時代あんなに好きだった曲だもの。
英語版Wikipediaに拠ると、
ピート・シーガーがこの曲を創ったのは1959年のことなのだという。ただし自ら録音したのはもう少しあと、1962年になってからだそうだ(
→本人のヴァージョン)。確かに同じ曲だが、
ザ・バーズ版のアレンジに比較すると彼の自作自演はあまりにも貧相、と云ったら悪いけど、ドライヴ感や盛り上がりにまるで乏しく、稀代の名曲という感じが全くしない。
シーガーの自叙伝に拠れば作曲に至った裏事情はこうだ。
この曲がどうして生まれたかといえば、おかしな話なんだ。1959年頃、私は出版社から手紙で文句を言われたことがある。「ピート、貴方はもう『おやすみアイリーン Goodnight, Irene』みたいな曲は書けないのですか? プロテストソングばかりプロモートするのはもう懲り懲りです」と。
私はかっとなって、短い手紙を書いた。「なら君は別のシンガーソングライターを見つけりゃいい。私はこういう曲しか書けないんだ」とね。そして手帖を手早く捲り、一年前に歌詞を書き留めたあたりまでページをまさぐった。今と同じく三千年もの大昔、サンダルと鬚面でユダヤに暮らした「伝道者」なる頑強な信徒が拵えた詞だ。私はそこに一行だけ書き足し("A time of peace, I swear it's not too late!")、数行を削った。冒頭の二行をコーラスとして反復し、新たな語をひとつ加えて三回繰り返した。録音テープに吹き込むと翌朝に投函した。
二日後、出版社から返事が届いた。「素晴らしいです。まさしく望んだとおりのものです」とね。 ―Where Have All the Flowers Gone by Pete Seeger (1993)ところでこの曲の最初の録音はシーガーの自作自演ではない由。これまた英語版Wikipediaからの受け売りだが、
ザ・ライムライターズ The Limeliters なるフォーク・グループが、シーガーよりも数か月前に "To Everything There Is a Season" の曲名でアルバム収録したのが嚆矢なのだという。1962年のことだ。
驚いたなあ。このザ・ライムライターズというグループ名には憶えがあるぞ。
これまた懐かしの鍾愛曲「
悲しき天使 Those Were the Days」の最初の録音もほかならぬ彼らの歌唱なのである(同じアルバムの収録曲らしい)。
Wikipediaの記事で更に吃驚したのは、上述のザ・ライムライターズによる「ターン・ターン・ターン」初録音のバックバンドにジム・マグィン、即ち後の
ロジャー・マグィン Roger McGuinn が参加していたという事実である。
周知のとおり、このロジャー・マグィン(バラカン氏曰く、従来の呼称「マッギン」は誤り)こそはザ・バーズの結成時からのメンバーなのだ。「ミスター・タンブリン・マン」以来、バンドの音色を特徴づけた十二弦ギターはほかならぬマグィンによるものだ。
つまり、こういう事の次第だろう。若きマグィンはニューヨークのフォーク運動のすぐ周辺に身を置いて、シーガーの新曲が音になる現場に居合わせた。この曲の可能性を知悉する当事者だったからこそ、自ら結成したバンドのレパートリーにこれを加えたのだろう。未だフォークとロックの境界が未分化だった時代のことだ。
そんな想像を巡らせつつ、youtubeでザ・バーズの「ターン・ターン・ターン」を聴いていたら、隣室の家人から不意に「
その歌だったら知っているわ」と声が掛かった。さらに家人の云うには、「
メリー・ホプキンの曲でしょ?」。「
子供の頃、茨城の実家にあった兄のシングル盤で飽きるほど聴いた」と。
ええっ、そんなの初耳だ、メリー・ホプキンの唄う「ターン・ターン・ターン」なんて知らないぞ、と思いきや、本当にそうだった。ちゃんと音源が実在する(
→これ)。
いやいや、実在するどころか、彼女の「ターン・ターン・ターン」はなんとあの稀代の名唱「悲しき天使」のシングルB面の曲だったのである。論より証拠、ほらね!(
→ジャケット)