つい先日のこと、畏友
平林直哉君から新作の覆刻CDが送られて來た。未だ市販はされてゐないやうだが、HMVのサイトには早くも紹介記事が載つてゐる。
【制作者より】
フレスティエ指揮の幻想交響曲はLP時代に國内では發賣されず、半ば幻と化してゐましたが、熱心なファンの間では「ミュンシュ/パリ管(EMI)」に匹敵する名演と云はれ續けて來ました。演奏は速いテムポでぐんぐん突き進むのと(總演奏時間は世界最短?)、現代佛蘭西の團體からは最早聽くことの出來ない明るくしやれた音色(特に管樂器)が聽きものです。また、第五樂章のコーダはミュンシュ/パリ管のライヴ(Altus)が登場する迄は、史上最速との評判でした。その幻想交響曲をセミ・プロ仕樣の十九センチ、二トラックのオープンリール・テープより覆刻しました。
また、「海」はモノラル録音ですが、こちらは世界初CD化です。これも幻想交響曲同樣、手際の良いテムポと、オーケストラの獨特の色彩が魅力です。こちらは初期LPからの覆刻です。
告知文が出たのだからもう當ブログで採り上げても差し支へ無からう。何しろ目の覺めるやうな水際立つた演奏なのである。實を云ふと一刻も早く紹介し度くてウズウズしてゐたのだ。確かに此れは古今無双の「幻想」と稱しても過褒にはなるまい。
ベルリオーズ:
幻想交響曲*
ドビュッシー:
海**
ルイ・フレスティエ指揮
セント・ソリ管絃樂團
1957年4月8、9日、巴里、サル・ヴァグラム*
1955年9月25日、巴里、アポロ座**
Grand Slam GS2080 (2012)
いやはや
ルイ・フレスティエ Louis Fourestier (1892~1976)とは「盤鬼」御大は只者ぢやない。小生のやうなLP時代からの佛蘭西音樂好きもフーレスティエ(と往時は綴つた)の名とは甚だ縁が淺かつた。ジャンヌ=マリー・ダレ獨奏のサン=サーンスのピアノ協奏曲全曲録音で伴奏指揮をした老匠、と云ふ程度の心細い知識しか持ちあはせてゐない。同じサン=サーンスの歌劇「サムソンとデリラ」の旧録音の覆刻LPもあつた筈だが、戰後の録音活動は次第に先細りになり60年代末には疾うに影の薄い存在だつた。先輩格のモントゥーやパレーの後塵を拝し、同世代のミュンシュの世界的な名聲には遠く及ばなかつた地味な上にも地味な人だ。活躍の舞臺が專ら歌劇塲だつた事も縁遠さの一因だらう。
だが此の「
幻想交響曲」を聽くとフレスティエの端倪す可からざる實力をつくづく思ひ知らされる。無理な誇張や芝居染みた演出を排し、すつきり淡々と進むやうでゐて、程良い昂揚感にも欠けてゐない。一氣呵成に疾驅する終樂章は確かに頗る秀逸な出來映へと云へよう。臨時編成の逸名團體も大いに健鬪してゐる。
倂録されたドビュッシーの「
海」も光彩陸離たる響きの好演。昨今の樂團のアンサンブルには及ばぬものゝ威風堂々たる演奏だ。管樂器の涼やかな音色には掬す可き味わひがある。因みに終樂章はトランペットの合ひの手が入らないヴァージョン。