気を張った机上作業にも些か飽いたので音楽に少し逃避。昨日のモントゥーに引き続き、アンセルメのドビュッシーを聴くことにする。なんと云ったって私らの世代には神様だったから。当時まだ存命中(来日もした)だったので、さながら現人神か。
"Ernest Ansermet vol. 1, Debussy"
ドビュッシー:
海*
クラリネットのための狂詩曲**
月の光(カプレ編)***
小組曲(ビュセール編)****
牧神の午後のための前奏曲*****
遊戯***
クラリネット/ローベルト・グークホルツ**
フルート/アンドレ・ペパン*****
エルネスト・アンセルメ指揮
スイス・ロマンド管弦楽団
1957年10月* ** *****、1958年5月***、1961年2月****、
ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホール
Decca London Jubelee 433 711-2 (1992)
いやはや懐かしい、というよりむしろ、殆ど刷り込みのように記憶の奥底に深く刻まれた音なのだ。この玲瓏で涼やか、いかにも儚げな薄い響きこそが私自身にとって「ドビュッシー事始」だった。
アンセルメの「
海」には1964年の再録音もあり、実は当CDにはそう記載されているのだが、先学諸賢の探究に基づき、これは1957年の演奏と判定した。となるとLP時代に聴いた録音とは別物なのか。いずれにせよ、終楽章のコーダ近くに現行楽譜には存在しないトランペットの「合いの手」音型が盛大に入るところが特徴的(作曲家から直伝の遣り方だという。この問題については次のHPに詳しい
→ここ)。
とはいうものの何十年経っても「海」という曲は苦手だ。外見ばかり壮麗で内奥の真実が伴わぬ音楽だという疑念を拭えない。今もその感想は変わらない。
思いの外いいのは「
遊戯」。スイス・ロマンドの軽い響きが奏功し、この世ならぬ密やかな非現実を垣間見るような気になる。「
牧神の午後」の柔和な気怠さも心地よい。フルートのペパンの音はまさに夢心地。
とはいえ、今なお最も愛するのは「
小組曲」。ビュセール編曲をまるでドビュッシーのオリジナルのように精妙に聴かせるアンセルメの音色配合の秘術にうっとり。
ジュネーヴの書斎で人心地つくアンセルメ翁(
→写真)。1950年代の撮影だろう。その背後の壁にドビュッシーが居るのにお気づきか? ほおらね(
→写真)。