今日はずっと根気よく外国語と格闘しつつ、その傍らで音楽を聴く。懐かしいピアニストの若き日の録音から。
ラヴェル:
ピアノ協奏曲*
ドビュッシー:
トッカータ ~「ピアノのために」**
バルトーク:
ソナティネ**
ルーセル:
三つの小品**
ピアノ/モニック・アース
ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮
ハンブルク北ドイツ放送交響樂団*
1948年11月30日*、1949年6月3日**、ハンブルク
Hänssler Profil PH04042 (2004)
新出の放送局録音かと思いきや、どうやら Deutsche Grammophon のSP盤からの覆刻らしい(そう名記しないのは詐欺まがいの遣り口だ)。とはいうものの珍しい聴きものには違いない。十六番のラヴェルとドビュッシーはもっと条件のよいステレオ録音があるのでわざわざ傾聴する価値はないが、バルトークとルーセルは恐らく唯一の音源だろうから値千金だ。戦前から同時代音楽のスペシャリストとして鳴らした
モニック・アース Monique Haas (1909-1987) の面目躍如たる好演奏なのである。作曲家ミハロヴィチの妻として多くのピアノ曲を初演したばかりでなく、ミヨーやフローラン・シュミットからも作品の献呈を受けた。ヴィシネグラツキーの難解な作品の初録音(1938)も、バルトークの遺作ピアノ協奏曲第三番の欧州初演(1946)も、彼女が手がけた筈だ。
とはいうものの、このディスクには欲求不満が募る。乏しい音質に災いされ、彼女の至芸を存分に味わった気がしないからだ。ならばこの一枚を聴くに如くはない。
ラヴェル:
ピアノ協奏曲 ト長調*
ピアノ協奏曲 ~左手のための*
ソナティネ**
優雅で感傷的な円舞曲**
ピアノ/モニック・アース
ポール・パレー指揮
フランス放送国立管弦楽団*
1965年4月12~15日、パリ、メゾン・ド・ラ・ラディオ*
1955年11月22~24日、ハノーファー、ベートーヴェンザール**
Deutsche Grammophon 00289 477 5353 (2005)
やっぱりこれは極め付きの演奏だなあ。ラヴェルの両協奏曲の理想的再現とはまさにこのことだ。いつもなら敬遠する晦渋な「左手の」協奏曲もアースが弾くと明晰そのもの、ちゃんと格好がつく。しかもパレーの伴奏が驚くほどに雄弁にして熾烈。こういう曲だったのだと気づかされる。
それにしても60年代のドイツ・グラモフォンが仏蘭西で録音したディスクにはハズレがない。ロリン・マゼル、マルケヴィチ、ルイ・フレモーらの最上級の演奏が幾つも記録された。よほど優れたプロデューサーがいたのだろう。