悲しくて遣りきれない気持ちをぐっとこらえつつ、無類の音楽好きだった故人を偲んで、彼にゆかりの楽曲をかけながら冥福を祈ろう。
題して
ケン・ラッセル追悼音楽会。まずはその第一部。
ピーター・マックスウェル・デイヴィス:
組曲《ボーイフレンド The Boyfriend》 ~原曲:サンディ・ウィルソン (1971)
組曲《肉体の悪魔 The Devils》(1971)
Seven in Nomine (1965)
ニコラス・クレオバリー指揮
アクエリアス
1989年10月、ロンドン、アビー・ロードEMIステュディオズ
Collins 10952 (1990)
今や英国音楽界における押しも押されもせぬ大御所としてサーの称号まで戴くP・M・D(Peter Maxwell Davies)も70年代初頭はやっと頭角を現しかけた新進作曲家の段階。ケン・ラッセルは逸早くその才能に目をつけ、二本の自作映画のための音楽を続けざまに依頼した。
その二本の取り合わせが半端ぢゃない。一方が1920年代の有閑階級のロマンスを愉しく能天気に描いた「お気楽ミュージカル」なら、他方は17世紀の修道院で酒池肉林の乱交と陰惨な魔女狩りが展開する「狂気と殺戮の歴史ドラマ」。これらを同時進行で撮った監督も監督なら、平然と音楽を描き分ける作曲家も作曲家だ。ふたつの映画音楽を続けざまに聴くと、それだけでもう卒倒しそうになる。
その頃ラッセル監督はP・M・Dのために自腹を切って、その時点での彼の代表曲「狂王のための八つの歌 Eight Songs for a Mad King」と「ヴェサリウスの解剖図 Vesalii Icones」のLP録音プロデュースまで引き受けている。よほどその天才に惚れ込んでいたのだろう。P・M・Dはそのあと、監督とデレク・ジャーマン(《肉体の悪魔》の美術担当だった)に次作オペラ『タヴァナー』への協力を持ちかけているが、諸般の事情でこの話は頓挫した。
互いに尊敬の念を抱きながら結果的にこの二作のみで終わったケン・ラッセルとP・M・デイヴィスとの協働作業の成果を今に伝える貴重なCDである。