あれこれ雑事を片付け、万障繰りあわせて上京。日比谷についたらもう日は傾いて堀端の銀杏樹が眩く輝いている。
堂々たる佇まいの第一生命本館へ駆け込み、今日が最終日の展示「モーツァルトの顔~18世紀の天才をめぐる6つの物語~」をざっと通観。小ぶりで地味な内容だが、ザルツブルクのモーツァルテウムからの将来品は瞠目に値する。
とりわけ特筆すべきは誰もが知るモーツァルトのあの肖像画の現物(
→これ)。作者はヨーゼフ・ランゲ(Joseph Lange)といい、モーツァルトの義兄(妻コンスタンツェの姉の夫)で本職は舞台役者。素人の余技というが悪くない絵だ。よそいきの顔立ちでないところに対象との親密さが滲む。思いのほか小さいサイズなのに驚く。この絵が後世のモーツァルト像の形成に及ぼした影響は無視できなかろう。どういう訳か未完なのも、夭折の人生そのままの趣なのである。これは眼福。
つらつら思うに作曲家の肖像画で文句なしの名画は案外と少ないものだ。バッハもハイドンもベートーヴェンも、肖像画作者はまるで知らない群小画家ばかりだ。そもそも「大作曲家 by 有名画家」という組み合わせが滅多にない。しかも秀作となると極く稀である。19世紀後半までの油彩肖像で咄嗟に思いつくのは
モンテヴェルディ →
ストロッツィ作ミューズに霊感を授かるケルビーニ →
アングル作(ピアノに向かう)ショパン →
ドラクロワ作ヴァイオリンを弾くパガニーニ →
ドラクロワ作ベルリオーズ →
ドーミエ作僧服を着たリスト →
ムンカーチ作ワーグナー →
レンバッハ作(1) →
同(2) →
同(3)死の数日前のムソルグスキー →
レーピン作くらいなのだ。他に何かあったろうか。ハインリヒ・シュッツとされたレンブラント作の肖像画(
→これ)はどうやら別人を描いたものと断定されたらしい。残念。