俄かに身辺が忙しくなってきた。美術雑誌の巻頭特集にかなり長めのエッセイを書かねばならぬ。不勉強で材料に乏しく、考えもまだ纏まらない段階。締切は刻々と迫っている。おまけにCDライナーノーツ執筆の依頼も舞い込んだ。ええい、ままよ、これも引き受けてしまう。いやはや自転車操業とはこのことだ。
まだ部屋の片付けも中途だというのに、何から先に手をつけたらいいのやら。こういうときこそ気を鎮めよう。まずは音楽を聴いて、万事はそれからだ。
"Prokofiev/ Shostakovich: Cello Concertos"
プロコフィエフ:
交響協奏曲
ショスタコーヴィチ:
チェロ協奏曲 第一番
チェロ/ムスチスラフ・ロストロポーヴィチ
小澤征爾指揮
ロンドン交響楽団
1987年11月、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール
Erato 2292-45332-2 (1988)
老境に入った巨匠ロストロポーヴィチがかつて自ら誕生に関与し初演を委ねられた二大協奏曲の総決算を期して最後の公式録音に臨んだアルバムである。にも拘わらず小生が耳にするのはこれが初めて。なんとなく敬して遠ざけていたのだ。
危惧していた技術的な問題は全くない。ただし曲に没入した白熱の演奏を期待すると肩透かしを喰らう。意外にも抑制の利いたクールな(といってもロストロポーヴィチにしては、の話だが)語り口なのに驚く。丁寧で的確にサポートするが、曲の内部には用心深く立ち入らない小澤の伴奏スタイルもその印象を助長していよう。
期待外れか? 然り。だが繰り返し聴くべき規範的演奏であることは疑いない。