歩き疲れて脹脛が痛い。一緒に行進した
みやたちもきっと同じだろう。
集会の開始時刻にはまだ間があるので、駅前のコンビニで水分を補給しようなどと考えたのが甘かった。千駄ヶ谷駅の改札を出た途端、織るような人波に巻き込まれてしまう。コンビニの店前には数十人の列ができている。仕方なく飲まず食わずのまま会場の明治公園へ向かうが、十分程の道のりが歩行渋滞でニ十分以上かかってしまい、集会場に到着したのは定刻の一時少し前。
演壇から百メートルほどの正面に僅かな間隙を見つけ、そのまま地べたにしゃがみ込む。周囲は立錐の余地もない汗牛充棟。周囲と肩・肘・尻・膝・爪先が触れ合う唐十郎のテント小屋さながらの混雑だ。とても知った顔を探せるような状況ぢゃない。ここで友人
おらがと
みやから相次いで電話が入るがもう身動きできない。
やがて呼びかけ人たちが登壇。鎌田慧、大江健三郎、内橋克人、落合恵子、澤地久枝の順に四分間スピーチ。生身のノーベル賞作家を見聞するのはこれが初めてだ。ドイツや福島からのゲスト、俳優の山本太郎のアピールが続く。大江は師である渡辺一夫の一節(「
狂気なしでは偉大な事業は成し遂げられないと述べる人々もいる。だがそれは嘘である。狂気によってなされた事業は必ず荒廃と犠牲を伴う」云々)を引き、落合はジョン・レノンの一節を敷衍しつつ「
想像して下さい。子供はどの国の、どの社会に生まれてくるかを、選ぶことはできません/想像して下さい。福島の子供たちを。そして、この国の子供たちひとりひとりを/想像して下さい。幼い子供が夜中に突然目を覚まし、"放射能、来ないで" と叫ばざるを得ない社会を。私はこの犯罪に加担したくはありません」と畳みかけた。
いずれも傾聴に値する発言だが、ここまで漕ぎ着けるのに半年かかったのが残念だし、もどかしくもある。その間に危機的状況はいよいよ悪化する一方だからだ。
集まった人数は目標の五万を超え六万をも上回った由。組織的な動員も目についたが自由参加の面々も少なくない。集会が終わると一斉に立ち上がり四方八方に移動開始するのでまたも大混乱。ようやく抜け出して
おらがと
みやとどうにかこうにか落ち合えたのは文明の利器のお蔭である。デモ行進は大人数ゆえ自由参加・労組・政党の三グループに分かれて別ルートを歩くというので、迷うことなく自由参加組に加わる。喫煙所で一服していざ出発。時刻は二時半を回っていた。
われらがルートは、明治公園から神宮球場脇を抜けて青山通り経由で表参道へと歩を進め、ラフォーレ原宿の交叉点で左折して明治通りを少し歩き、山手線の外へ出て更に線路沿いを渋谷方面へ進んで公園通りに入ってNHK前まで歩くという、目抜き通りばかりの「お洒落な」コース。
雨降りも危惧される空模様だったが幸い薄日が射して絶好のデモ日和。道行く人々の反応はまあ相変わらずだが、繁華街なので幾許かの波及効果はあるだろう。例によって混成団体ゆえ一向に気勢は上がらず粛々と歩む。
途中
みやの足の調子を慮って表参道ヒルズ附近で隊列をそろりと抜け、休憩を兼ね喫煙コーナーで一服。今日も元気だ煙草が旨い。
五分ほどして列に復帰すると周囲はさっきと全く違う顔ぶれ(当たり前だ)。今度はえらく威勢のいい中高年の団体(揃いの法被をまとい、和服姿の女性もいた)で、これ幸いと唱和しつつ声をあげる。山手線ガードを抜けると悪名高い東電の広報施設「電力館」だ。すでに閉鎖している無人の建物に向け「東電解体!」の罵声が一斉に巻き起こる。しかも何度も繰り返してである。
公園通りのだらだら坂に上り疲れたのか周囲の声がだんだん弱まってくる。これではならじと赤いメガホンで声を限りに唱和するうち、いつの間にかシュプレヒコールの先導役となって終わった。声が大きい者の役回りなのだ。ふう、さすがに疲れた。
歩いたあとはお約束の水分補給。馴染の居酒屋「ひものや」に駆け込み、
おらが、
みや、
あらかわ、小生の四人衆でまずは乾杯。今日も元気だ麦酒が旨い。三人がこぞって紫煙を燻らせたので
おらがには済まないことをした。
例に拠って面白すぎる
みやの思い出話に皆で聞き入る。亡くなった原田芳雄、中村とうよう双方と仕事を共にした稀有な体験の持ち主なのである。年末恒例の原田邸の餅つき大会に二度も参加したのだそうだ。
いつも合流する
こいぶーもヴォーカリストの
カムラ姐御もどうやら行進の遙か後方だったらしく六時近いのに未着のままだ、でも今日はここに長居できない事情がある。これから仕事に戻るという
おらが、仲間と落ち合うという
あらかわ。そして
みやと小生はまだ余力があるので池袋で映画を観ようという魂胆なのだ。いいな、こういう感じ、三十五年前の若き日の荻大を彷彿とさせる。
若者でごった返す渋谷駅頭で散開したあと二人組は池袋へ。目指すは云うまでもなく新文芸坐の原田芳雄追悼特集である。
ニワトリはハダシだ
シマフィルム/ザナドゥー
2003
監督/森﨑東
脚本/近藤昭二
撮影/浜田毅
音楽/宇崎竜童、太田恵資、吉見征樹
出演/
原田芳雄、浜上竜也、肘井美佳、倍賞美津子、石橋蓮司、余貴美子、李麗仙 ほか
生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言
キノシタ映画/ATG
1985
監督/森﨑東
脚本/近藤昭二、大原清秀
撮影/浜田毅
音楽/宇崎竜童
出演/
原田芳雄、倍賞美津子、平田満、上原由恵、殿山泰司、泉谷しげる ほか
9月19日は原田芳雄が亡くなって二か月目の月命日。それも勿論あるが、その当日このニ本立とは心底驚かされる。上映チラシを眺めていてアッと叫んでしまった。森﨑東監督の《
生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言》を19日にスクリーンで観られるとは! 単なる偶然とは思えなかった。これを天の配剤と呼ばずしてなんと云おう。見逃すわけにはいかないのだ。
(まだ書きかけ)