暑い、と云ひ表すのでは足りない氣がする。寧ろ、熱い、と思はず聲を上げたくなるやうな、途轍もない今日の猛暑であつた。夕刻の今も熱氣が殘つてゐる。未だ梅雨明け前の六月といふのに、來るべき夏は一體全體どうなつてしまふのであらうか。
それでも冷房は使はずに過ごす。意地でも電源を入れない。何故かと問はれゝば、嫌ダカラ嫌ダ、とでも答へるほかあるまい。
かくなるうへは、精神的の冷氣をば部屋に導き入れるほか打つ手はなささうだ。遙か彼方なる英國の涼風よ吹け。
"British String Miniatures 1"
ギャレス・ウォルターズ: 嬉遊曲
エドワード・エルガー卿: 悲歌
マイケル・ロバーツ: 組曲
フレデリック・ディーリアス(エリック・フェンビー編): 二つの水彩畫
アンソニー・ヘッジズ: フィドル彈きの緑
ウィリアム・ウォルトン卿: 二つの小品 ~映畫《ヘンリー五世》
ジョン・アディソン; パルティータ
ギャヴィン・サザーランド指揮
ロイヤル・バレエ・シンフォニエッタ
2001年7月5、6日、ロンドン、ソニー・ミュージック・ステュディオズ
Sanctuary Classics/ White Line CD WHL 2134 (2002)
エルガー、ディーリアス、ウォルトン三人衆の樂曲は何れもこの手の英國絃樂合奏曲アンソロジーの定番中の定番だが、その余は未聽の音樂ばかり。ウォルターズ、ロバーツ、ヘッジズに到つては存在すら知らない作曲家である。映畫音樂で名高いアディソンの曲に好感を抱く。
何も難しい事は考へず續けざまに傾聽してゐると、なだらかな田園風景が髣髴とする氣になつてくるから不思議だ。實に安價な銷夏法であることよ。冷房は要らない。
當盤はアルバム・カヴァーが涼しげで誠に宜しい(
→これ)。いにしへのセピア色の冩眞に映つてゐるのはケムブリッヂのケム川の情景なのださうだ。
「英國絃樂細密畫」と題する當シリーズは確か第三輯迄出たと思ふ。2003年倫敦に立ち寄つた折、もう當分は訪れる機會も望めまいと、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールの小さなショップで紀念に纏めて三枚買ひ購めたもの(MDCといふ店名シールが貼つてある)。五年後に再訪すると賣店は同じ建物のテムズ河に面した瀟洒な場所に移轉してをり、昨年末に再々訪したら忽然と姿を消して了つてゐた。もう旅先でのんびり音盤を漁る愉しみは味はへぬのだらうか。