今日も勉強。せっせと画像のスキャン。ほぼ構想は纏まった。先日慌てて書いた原稿のゲラが届いているので、それもチェックして返送。ふう、やっと一息つけそうだ。
心身ともに消耗する日々の只中、こんな珍しいCDがひっそりと世に出ていた。鍾愛の曲だというのに不覚にも今の今まで気づかなかった。
《エルリとジャメ五重奏団によるロパルツの歴史的録音》
ロパルツ:
前奏曲、マリーヌとシャンソン*
ヴァイオリン・ソナタ**
ピエール・ジャメ五重奏団*
■ハープ/ピエール・ジャメ Pierre Jamet
■フルート/ガストン・クリュネル Gaston Crunelle
■ヴァイオリン/ルネ・バ René Bas
■ヴィオラ/ジョルジュ・ブランパン Georges Blanpain
■チェロ/ロベール・クラバンスキー Robert Krabansky
ヴァイオリン/ドヴィ・エルリー**
ピアノ/モーリス・ビュロー**
1956年、パリ
グリーンドア音楽出版 Green Door GDCL-0056 (2011)
「
前奏曲、マリーヌとシャンソン Prélude, Marine et Chanson」は小生がフランス近代の未知の作曲家
ジョゼフ=ギー・ロパルツと出逢う契機となった佳曲である。1960年代の後半、NHK・FMの「
朗読の時間」で、番組の冒頭と終わりにこの曲のごく一部(「マリーヌ」の冒頭部分)が流れたのである。なんという美しさだろう。典雅で清楚な佇まいに魅せられ、番組宛てに曲名を問い合わせた。田舎の高校生はえらくご執心だったのだ。そのとき耳にしたのは英国のメロス・アンサンブルの演奏だったが当時もう廃盤だったので、上野の文化会館の資料室でリクエストして、食い入るように試聴したものだ。あの頃の情熱がわれながら羨ましい。
この話は四年前にもちょっと書いたことがある(
→ここ)。
ただし当該記事で小生はうっかりその演奏を「このディスクこそは同曲の初録音だったのである」と書いてしまったのだが、これが真っ赤な偽りであった。
今これから耳にするフランス本国のLP(Ducretet-Thomson 300 C 23)こそが正真正銘の最初の録音。作曲家の歿後一年後に出たものだ(恐らく追悼盤なのであろう)。弱小レーベル「
デュクルテ=トムソン」はいかにもフランスらしい良心的な会社(本業は家電製造業)だったが、疾うに潰れてしまい、この演奏も永らく幻と化してしまったので、今回の再登場は(LP盤からの覆刻なので音質にかなり制約はあるものの)値千金なのである。
演奏は期待していたとおり。閑雅な味わいが古めかしくもあるのだが、ロパルツの思い描いたのはまさにこの語りかけるような親密な響きなのだろう。1922年創設の
パリ五重奏団(当初のハープはマルセル・グランジャニー、24年からはジャメ)は何度もメンバーが入れ替わり、戦後はジャメ五重奏団と名を改めた。それでも戦前からの伝統はしっかり受け継がれたものと思われる。そもそもロパルツのこの「
前奏曲、マリーヌとシャンソン」は1928年、ほかならぬジャメとその五重奏団のために書かれた楽曲だったのである。「値千金」とはそういう意味だ。
ドヴィ・エルリーの弾くヴァイオリン・ソナタも佳演だが、エルリーの芸風とロパルツの間には齟齬があるような気がする。まあ好みといえばそれまでだが。
それにしてもグリーンドア盤の覆刻技術はいただけない。音の輪郭がくっきりせず、隔靴掻痒の憾みが残る。ライナーノーツも素人の感想文の域を出ないし、曲目解説は無内容でなんの役にも立たない代物。録音データはおろか、アンサンブルの個々の奏者名すら記さぬなど以ての外だ。最低。