昨日は久しぶりにジョゼフ・コーネルの数奇な生涯に深く想いを馳せた。20世紀のニューヨークを生きながら遙か彼方のヨーロッパ、それも百年前のロマンティック・バレエに激しく憧憬恋慕し、遂には往時のバレリーナの現身の幻影とマンハッタンの街路で遭遇してしまう。殆ど狂気すれすれの人生である。
一夜明けても強烈な余韻が冷めやらない。なのでコーネルの顰みに倣って彼が必ずや狂喜乱舞したであろうアルバムを聴く。
"The Art of the Prima Ballerina"
ルートヴィヒ・ミンクス: 影の王国(抜粋) ~『ラ・バヤデール』
リッカルド・ドリーゴ(+チェーザレ・プーニ): パ・ド・トロワ ~『妖精人形』
アドルフ・アダン(+リッカルド・ドリーゴ+フリードリヒ・ブルクミュラー):
葡萄作りの行進、パ・スール、村娘のパ・ド・ドゥー ~『ジゼル』第一幕
アドルフ・アダン: グラン・パ・ド・ドゥー ~『ジゼル』第二幕
ヘルマン・レヴェンショルド: パ・ド・ドゥー ~『ラ・シルフィード』(ブルノンヴィル版)
チャイコフスキー(リッカルド・ドリーゴ編): 黒鳥のパ・ド・ドゥー ~『白鳥の湖』
作者未詳(ジェイムズ・オターナー編): ボレロ1830
チェーザレ・プーニ(ウィリアム・マクダーモット編): パ・ド・カトル
リチャード・ボニング指揮
ロンドン交響楽団1962年11月、ロンドン、ウェスト・ハムステッド、デッカ第三スタジオ
Decca 433 861-2 (1992)
甘美すぎる無節操な楽曲ばかりでなんとも鼻白むアルバムだが、これらこそコーネルが憧れてやまなかったロマンティック・バレエを彩った音楽なのだ。『
ジゼル』を初演した
カルロッタ・グリージも、『
ラ・シルフィード』を初演した
マリー・タリオーニも、彼の崇拝の的であり続けた稀代の舞姫たちだった。
とりわけ最後の『
パ・ド・カトル』を聴いてコーネルは天にも昇る夢心地がしたろう。なにしろ当代屈指の四大バレリーナである
マリー・タリオーニ、
カルロッタ・グリージ、
ファニー・チェリート、
ルシル・グラーンが一堂に会し、同じバレエで共演したのだから(1845年)。その音楽がどんなに無内容でも彼は意に介しはしなかったろう。