原稿の締切日だというのに、書いては消し、書いては消し、の繰り返し。さっぱり捗らない。一度は出来上がった文章も不本意な仕上がりなので全文抹消。いやはや年頭から幸先の悪いことだ。発注元に申し開きがたたない。
さてアニヴァーサリー・イヤー連載の締め括りは last but not least... という訳で愈々真打登場である。
"Čiurlionis: Poèmes symphoniques, quatuor"
チュルリョーニス:
交響詩「森の中で」
交響詩「海」
弦楽四重奏曲*
ウラジーミル・フェドセーエフ指揮
モスクワ放送交響楽団
ヴィリニュス四重奏団*
1989年12月、1990年1月、4月、
モスクワ音楽院大ホール/モスクワ、ゴステレラジオ、スタジオ5
Le Chant du Monde-Saison Russe LDC 288004 (1991)
ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニスは作曲と絵画制作、更に文筆と写真撮影まで手掛けた多面的な芸術家だった。独立を喪い、文化的にも立ち遅れたリトアニアがかくも多彩な天才を育んだのは奇蹟というほかない。しかもジャンルを越えた諸芸術の総合が尖端的な時代精神だった19世紀末にである。
作曲家としてのチュルリョーニスはピアノ曲と合唱曲の分野で豊穣な遺産を残したのだが、今日は彼が書いた数少ない管弦楽曲である「
森の中で」と「
海」を久しぶりにかけてみる。
フェドセーエフの指揮は穏健だが共感に満ちた秀演。ソ連邦の崩壊直前にモスクワでチュルリョーニス録音が敢行されたことの不思議さを噛みしめながら聴く。
弦楽四重奏曲は終楽章が失われたため、「未完成交響曲」さながらに三楽章までしか聴けないが、チュルリョーニスの古典的なアプローチを知るうえで興味深いものだ。ヴィリニュス四重奏団の演奏も申し分ないもの。
録音時にはソ連邦の頸木の下にあったリトアニアは1990年3月11日に独立回復を宣言、チュルリョーニス学者でピアニストの
ヴィータウタス・ランズベルギスが初代国家元首に就任する。
本ディスクではそのランズベルギスが実に含蓄深い序文を寄せている。
チュルリョーニスの残した遺産と、そのリトアニア音楽文化における重要度はまさに計り知れない。自国の民族文化復興期にあって、チュルリョーニスは最初の音楽作品を極めて高い芸術水準で創造した。その根幹をなす大原則は民衆芸術への個性的なアプローチにあり、こうした基盤の上に彼は真摯な創造と、制作における専門的習熟を築いたのだ。
──ヴィータウタス・ランズベルギス(音楽学者、リトアニア共和国元首)
2011年はチュルリョーニスが道半ばで斃れてちょうど百周年なのである。