かかってこない電話を待つうち、とうとう日が暮れた。大切な要件なので逃すわけにはいかないのだ。
なのでCDをまた一枚。別室の書庫でこんなのが先日ひょっこり出てきた。
"Le dernier concert de Zino Francescatti"
サン=サーンス:
ヴァイオリン協奏曲 第三番*
序奏とロンド・カプリッチョーゾ**
ベン=ハイム:
無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ト長調
ヴァイオリン/ジーノ・フランチェスカッティ
ピエール・ブーレーズ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック*
マニュエル・ロザンタール指揮 フランス放送フィルハーモニー管弦楽団**
1975年12月16日、ニューヨーク(実況)
1961年5月4日、ヴェルサイユ(実況)
1958年8月9日、ブザンソン(音楽祭実況)
Lyrinx LYR CD 086 (1997)
ジーノ・フランチェスカッティと聞くとモノラル期の名匠、旧時代のヴィルトゥオーゾという感じがしてしまうのだが、実はこの名人は1991年まで存命だった。
1902年マルセイユ生まれ。芸風はロマンティックでやや古風ですらあるのだが、世代的には1901年生まれのハイフェッツ、1903年のミルシテインとともに正真正銘の20世紀人なのである。
本CDの「最後の演奏会」という標題が正しければ、彼は七十三歳と四箇月でNYフィルの演奏会に客演し、極め付きのサン=サーンスの第三協奏曲を披露して栄光のキャリアを締め括ったことになる。その後は専ら後進の指導にあたったそうで、永く親しんだ愛器ストラディヴァリウスは後輩サルヴァトーレ・アッカルドに譲ったという。
流石に天馬が空を駆けるような演奏とは参らぬが、それでも音程も運指も正確だし、音色にも翳りがない。これで引退とは早まった気もするが、本人は衰えぬ間に有終の美を飾りたかったのだろう。
伴奏指揮が
ピエール・ブーレーズというのが意表を突いている。当時のNYフィル常任なのだから当然なのだが、独奏者とは志向性がおよそ相容れなかったろうし、そもそもサン=サーンスをブーレーズが振ること自体が空前絶後。彼はドビュッシー以前のフランス音楽ではベルリオーズしか演奏しない主義なのだ。
結果はといえば、まあ悪くないが良くもない。フランチェスカッティにも遠慮があるらしく、自由に羽搏けない様子がありあり。大過なく堅実に振り終えたあとのブーレーズの渋面が見えるようだ。
もう一曲「序奏とロンド・カプリッチョーゾ」のほうは年代的にも全盛期に近く、指揮者との相性も抜群。フランチェスカッティの提琴がそれこそ水を得た魚の如く跳ね回る。ロザンタールの伴奏も天下一品だ。