先日その訃報に接した
ルドリフ・バルシャイの録音を書庫から探し出してきた。
元来はヴィオラ奏者でボロジン弦楽四重奏団とチャイコフスキー弦楽四重奏団の創設団員でもあったというバルシャイの独奏が聴ける録音はごく僅かしか存在しない(少なくともCDでは)。今夜はその稀少な一枚を心ゆくまで味わおう。
"Rudolf Barshai: The enchanting sound of a viola"
シューマン: お伽の絵本 作品113*
プロコフィエフ(バルシャイ編): 『ロミオとジュリエット』から 五つの小品*
ラヴェル(ボリソフスキー編): 亡き王女のためのパヴァーヌ*
ドビュッシー(ボリソフスキー編): 小舟にて*
ヒンデミット:
無伴奏ヴィオラ・ソナタ 作品25-1
葬送音楽**
ヴィオラ/ルドリフ・バルシャイ
ピアノ/ヴラジーミル・シュレイプマン*
モスクワ室内管弦楽団**
1960年代、モスクワ
Kicco Classic KC00897CD (1997)
これは実に得がたいアルバムだ。恐らく正規の手続きを経ず、ソ連時代の古いメロジヤ盤LPから起こした覆刻CDであろうが、それにしては音質が芳しい。バルシャイのヴィオラがいかに雄々しく骨太の音だったかがよくわかる。
学生時代に親しくその謦咳に接したというプロコフィエフの楽曲が聴けるのが何より嬉しい。バレエ『
ロミオとジュリエット』からバルシャイ自身が手掛けたヴィオラ&ピアノ用の編曲。「情景」「アンティル諸島の娘たちの踊り」「仮面」「修道僧ロレンツォ」「マーキューシオの死」の五曲がいとも鮮やかに奏される。
そしてヒンデミット。1960年代のソ連では永年の禁が解けてヒンデミット演奏が盛んになったと推察される(ムラヴィンスキー、ユージナ、オイストラフらが相次いで取り上げた)。このバルシャイ演奏も恐らくその一環ではないか。これはたいそう貴重な録音だ。しかも深々とした好演である。無伴奏ソナタを堪能したあと、手兵を従えての「
葬送音楽」をバルシャイその人の葬送音楽として聴く哀しみを噛みしめた。