郵便ポストを覗いたら雑誌小包が届いていた。
英国の音楽雑誌 "BBC Music" の十月号である。いつもは銀座か渋谷のHMVで購めていたのだが、どちらの店も閉店してしまったので郵送に切り替えたのだ。
大小さまざまな記事やらを拾い読みしていたら、"Building a Library" という旧譜紹介の頁でプロコフィエフのバレエ『
ロミオとジュリエット』全曲盤が採り上げられていて吃驚した。つい先日このブログでも記事にしたばかりだからだ(
→ここ)。しかも驚いたことに、真っ先に推奨されているのが
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー盤、
ワレリー・ゲルギエフ盤と全く同じなのであった。評者は誰かとみると、やはり
デイヴィッド・ニースなのであった。
ロジェストヴェンスキー盤については、当時のボリショイ劇場の通弊で別人の手の入った改悪版楽譜が部分的に混入した演奏であることを惜しみつつも、
Outstanding are Rozhdestvensky's phrasing
of the many love-themes and the uttering theatrical instinct
with which he moves, urgently but never rushing,
from number to number.
と口を極めて大絶賛している。一方のゲルギエフ盤については、
Lovely woodwind solos are joy from the start,
and Gergiev has a unique take on the billowing love music
as well as the pathos of the lovers at parting.
とむしろ抒情的な演奏であることを強調する。同感だ。大いに意を強くした。
この雑誌は付録CDがいつも愉しみなのだが、本号は常にも増して豪華な内容だ。
モーツァルト: ヴァイオリン協奏曲 第四番*
コルンゴルト: ヴァイオリン協奏曲**
ヴァイオリン/ヒラリー・ハーン*、アンドルー・ハヴロン**
アンドルー・デイヴィス卿*、イジー・ビェロフラーヴェク**指揮
BBC交響楽団
2000年9月9日、ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール
(「プロムズ」ザ・ラスト・ナイト実況)*
2010年2月19日、ロンドン、バービカン・ホール(実況)**
BBC Music MM 323 (2010)
モーツァルトとコルンゴルトとは意表を突いたカップリングだが、二百年の時を隔てたウィーン音楽の始まりと終わりといえなくもない。
きっかり十年前のプロムズ最終日での
ヒラリー・ハーンのモーツァルト実況は値千金。現時点でまだ正規盤がないモーツァルトの協奏曲がかくも感興たっぷりの秀演で聴けるとは贅沢だ。
対するコルンゴルトは百五十年後のウィーン楽派の「なれの果て」と云っては酷だろうか。あまりにも口当たりの良すぎる大甘のザッハトルテのようで、人工甘味料もたっぷり。まるで映画音楽さながら、といいたくなるのも宜なる哉、実際に自作の映画音楽からあれこれ主題が流用されているそうな。ブロツキー四重奏団からBBC響のコンサートマスターに就任したハヴロンの演奏は申し分のない手堅さだ。
(追記)
少しして気づいたのだが、このコルンゴルトの独奏者
アンドルー・ハヴロンの生演奏を東京で聴いたことがある。二年前にゲルギエフがロンドン交響楽団を率いて来日してプロコフィエフの連続演奏会を催したとき、ハヴロンは客員コンサートマスターとして同行し、協奏曲のあとで
ワジム・レーピンがアンコールに「二挺のヴァイオリンのためのソナタ」の楽章を奏する際、やおら起立して二人して共演したのだった。その日のレヴュー(
→ここ)に名が記してあったのでそう思い至った次第である。