朝から吹いていた強風は春一番だったのだろうか、それも夜には鎮まったようだ。次回の原稿の素材を整えつつ、終日あれこれCDをかけて過ごす。
ヒンデミット:
ヴァイオリン協奏曲
ヴェーバーの主題による交響的変容
交響曲「画家マティス」
ヴァイオリン/ダヴィド・オイストラフ
パウル・ヒンデミット指揮 ロンドン交響楽団
クラウディオ・アッバード指揮 ロンドン交響楽団
パウル・クレツキ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団
1962年9月、ウェスト・ハムステッド、第三スタジオ
1968年2月、ロンドン、キングズウェイ・ホール
1968年9月、ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホール
Decca 433 081-2 (1992)
たまたま書庫で別のディスクを探していたらひょっこり出現した。既存の音源をこき混ぜた「20世紀音楽入門」的なコンピレーションの一枚だが、いずれも惚れ惚れするほどの秀演なのに吃驚。これは古今屈指のヒンデミット・アルバムではないか。
ヴァイオリン協奏曲はとんと馴染のない曲だが、ヒンデミットの創作力が横溢していた1930年代を締めくくるに相応しい充実した音楽だ。それを作曲者自らの指揮、オイストラフ独奏で聴ける贅沢さといったら! メンゲルベルクの依頼作なのだそうだが、1940年3月14日(きっかり七十年前だ!)のアムステルダム初演(フェルディナント・ヘルマン独奏)に肝腎の作曲家は臨席していない。すでにスイスから米国へ逃れてしまったからだ。
次の「ウェーバーの主題…」はその米国亡命時代、1943年の作。書法の練達は相変わらずだが内発性に乏しいこと夥しい。若き日のアッバードの指揮は明朗で柔軟、なかなかに好もしい。たしかLPとしてはヤナーチェクのシンフォニエッタと抱き合わせて出たのではなかったか知ら。
最大の聴きものは三曲目の「
画家マティス」であろう。アンセルメから後事を託された
パウル・クレツキがそのスイス・ロマンドを率いた数少ない録音のひとつなのである。一聴して響きはラテン的に明るいが、音楽的には真摯で重量感にも不足しない。クレツキ会心の演奏であり、この交響曲の最良の解釈のひとつではないだろうか。この録音の僅か三箇月前の来日時にも同じ顔触れの「マティス」が聴けたはずだ。生でどこまでやれたかは保証の限りではないが。